【映画感想】Cosmic Blue

※この記事はいち個人の感想です。ネタバレにも一切配慮していません。

 

自身も子役からの長いキャリアを積んだ俳優でもある柳英里紗という監督の新作短編映画に、BOYS AND MEN田中俊介くん a.k.a. 推しが主演するらしいぞという知らせをtwitterで聞いたのが、今年2019年2月あたまだったでしょうか。

それから2ヶ月、先日4月に東京で行われた「ラブラブラブシネマ2019」で発表されたのが件の短編「Cosmic Blue」だったわけですが、残念ながら私は会場に駆け付ける事ができなかったので、ま〜年内にはどうにかワンチャン見れたらいいな〜…くらいのボンヤリした展望で展開をお待ちしていたらば、名古屋シネマスコーレ*1でこの5/4~17まで開催されていた「田中俊介映画祭」でのシークレット上映*2が行われまして、おかげで無事鑑賞が叶いました。よかったよかった。

しょうみな話、私はさぬき映画祭での一報をtwitterで知るまで柳監督の事を寡聞にして存じ上げなかったので、*3もちろん前作「VERY FANCY」も見ておらず、さぬき映画祭もラブラブラブシネマも不参加だったので、監督の作風も人となりも技量も何もかもが未知数な中、入ってくる情報は本人と周辺のtwitterinstagramのみという状況で、*4めちゃくちゃぶっちゃけますけど「えっこの人大丈夫…?」「これは最悪、専門学校生の自己満足身内ウケ製作物レベルを覚悟したほうがいいのか…?」くらいの覚悟をしていた。すいません。

それで実際作品を見てみてどうだったかといえば、想像よりは全然ひどくなかった。
有り体に言ってしまえばもっとおちゃらけてるというかナメた態度かと危惧してたけど、むしろ、ちょっと肩に力が入りすぎてんのかもな〜くらいな印象だった。もっとパリピが身内ノリでキャッキャしてるようなもんが来るかと身構えてたけど、むしろパリピの皮を被った専門デビューの頭でっかちサブカル隠キャのビレバン常連みたいな感じ。*5
全然褒めてないやんって?いやそもそも褒めようとしてはいないんだ。

先に総括言ってしまうと、想像よりはひどくなかったけど、良かったかと言われれば良くもなかったんすよね……。
いやでも、やりたいことはわかる。わかる…けど…成功してるかと言えば成功はしてないな…みたいな…。野心的っていうところも意欲作ってところもまあ伝わるけど、だからって良作佳作ではないんじゃないかな〜って、どうにも奥歯にものが挟まったみたいな言い方になっちゃうけど…。ていうかほんと口さがなくてすいませんね、でも個人の感想だしお金も払ってるから言いたい事言わしてもらいますけど。

田中俊介も「柳さんは"賛否両論"欲しいんだと思うんすよ、"否"の方も」って言ってたから、賛じゃないこと書かせてもらうねごめんねここが俺のチラシの裏だからさあ…。

 

重ね重ね不躾ながら、専門学校生女子ノリのゆるふわ〜⭐︎ゆめかわ〜⭐︎KAWAII女子最強ズッ友BBF〜〜⭐︎みたいなのがくるぞくるぞ、さあどうしてくれようか…と斜に構えてたのに、蓋を開けたら結構ハードコアにヌーヴェルヴァーグなアートムービーやりたい人が正座しててびっくりしたんですよ。
シネマスコーレでかけてるけどこれシネマテーク*6色のやつじゃんって。

冒頭の公園で遊んでるシーン始まって10秒くらいは「ハ?おいおいやっぱりかよふざけんなよ…」って眉間にシワが寄ってたのが、20秒、30秒と伸びてくにつれて「あっ違うわ、この人ゴダールになりたいってかヌーヴェルヴァーグやりたい人か」って理解して、そっから先はわ〜がんばれがんばれ…という気持ちで見守ってたんだけど…。
でも、鑑賞者ががんばれがんばれって応援しながら見守らなきゃならん映画って、それは決していいもんではないよね。我に返りすぎてて。
私も別にその道の専門家でもなんでもないけど、でも、こういう方向の作品にはもっと、有無を言わせず巻き込んで飲み込んでいく力がないと、正直きついんじゃないかな。
実際、場内の反応見てても*7、上映後一切間を置かず(他の上映の時は登場までもったいぶってたのに)すぐさま「いや〜!難解すぎんだろ!!」って叫びながら舞台にすっ飛んで行ってフォローに回ってた田中俊介見てても、それは如実に感じた。

作品見ながら私が「監督はああいう雰囲気がやりたいんだろうな〜」と、画面や全体の見せ方に関して思ったのはこのへんなんですけど(ヌーヴェルヴァーグばっかじゃないけどご容赦ください)*8


映画『ひなぎく』予告編

 


La Chinoise + Le Gai Savoir – Jean-Luc Godard – Restoration Trailer



「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ」予告



The Holy Mountain (HD Trailer - HD) | ABKCO Films ※グロ耐性ない人気をつけて

こういうタイプの作品って、まず最初は筋が理解できなくても、理屈抜きで引き込まれてしまうくらいの圧倒的な力と魅力に巻き込まれて、よくわからないけど最後まで見ちゃったぞ、ああよくよく反芻してみるとそういうことだったのか…っていうこと、ままあると思うんですが、「Cosmic Blue」にはまずその巻き込む力がまだ足りないと感じてしまったんだよなあ…。そこが弱いと、観客って残酷だから、たとえ20分ちょいの短編であっても、読み解こう、理解しようと思ってもらうことはおろか、まず最後まで見てもらうことすら難しいから…。*9
もちろんこの作品に感性が響き合うタイプの人もいるだろうなとは思うけど、これはまだその狭い一部の枠の中にしか刺さる力がないと感じた。

あと、舞台挨拶でも話されてたように、私も「余命がいくばくもない宇宙人たちが、享楽的に最後の時間を貪り、全員がひとりの地球人に恋をして彼を求める」っていうのが話の大筋と受け取ったんだけど、(ていうかここはわかりやすかったと思う)途中でキャラクターが「地球人は〜」って自分たちが宇宙人である事をネタばらしするようなセリフを言っちゃうのが、これは個人の好みもあると思うけど私はソレ要る?っていうかちょっと日和った?って思っちゃったな〜。どうせ難解にやりたいなら安牌投げずに最後までとことん不親切に押し切ってもよかったんじゃないかな。不親切にっていうか、そのパンくず撒かなくても観客も結構読み解く力持ってるし、ちゃんと辿り着けるので観客と作品の力信じて大丈夫だと思うんだけどな。*10
これも個人の好みだけど、わりと序盤にある「何やってんだろうね〜全然カットかかんないね〜(笑)」っていうメタなセリフも、ここから先にメタ構造頻発するのか?っていう鑑賞者の迷いを生むノイズになるから切ったほうが話に集中できたな…とも思った。小ネタ入れたくなっちゃう気持ちはわかるんだけど。
余計なパンくず撒かなくていい代わりに、つまずくような石は取り除いといてほしい。難解な構造や抽象をやりたいならなおさらに。

これは同時上映との兼ね合いとたまたま私っていう鑑賞者のその日の気分にも依存する話になってくるからちょっとアレなんですけど、名古屋で「Cosmic Blue」が上映された日は内田英治監督の「シェアハウス」が同時上映されていたんですね。
私はかねがねから内田作品の画面がすごく好きで、でも自分でもその理由がわからなくてあれこれ考えた結果、ジョージ・ミラー監督が「マッドマックス 地獄のデス・ロード」を撮るときに「観客の集中を削がず尚且つ重要なファクターを見落とさせないために、重要なものや事件はすべて画面の中央に持ってきている」と言ってたのをどっかで読んだのを思い出して*11、内田監督の画面の安定感にももしかしてこれが関係しているのでは?と「シェアハウス」上映中ずっと画面の中心や水平や比率や視線誘導やそういうところをやたら注意深く見てたんですよ。
その後の「Cosmic Blue」だったので、冒頭の公園からもう画面の中のバランスその他が気になって気になって…。人物2人がアップになるようなカットでも何で中心そこやねんとか…。
前述の事置いといても、わたくしが「パリ、テキサス*12のゾッとするほど完璧な画面レイアウトに心酔してるような人間なんで、これも本当に個人の好みの話になってしまうのかも知れないけど…あと、画面の不安定さも狙ってやってんだろうなとは思ったけど…でもこう…見せ方の足し算引き算というか…こっちにブレを出したいならこっちは安定させておかないとアクセントにならないじゃん、印象付けたいブレが埋もれて全てがブレブレになってしまうやんっていう…。つ、伝わるのかなこの感情〜。まあいいや個人の感想覚え書きだから〜。(ここにきてまだ逃げを打とうとする)

あ〜しかし、こんだけぐるぐる考えて、書いて、表層のストーリーも読み取って文句のつけどころまで見つけてても、映画の主題が何だったのかまではたどり着けてないんすよね…。たどり着けてないっていうかここは正解探さなくても観客それぞれが自分なりのものを受け取ればいいところだと思うんだけど…。

ここまで散々"賛否"の"否"ばっか書いてきたので、じゃあお前は「Cosmic Blue」嫌いだったんですね?と言われれば、実際それも違うんすよね…。いや確かに好きではないんだけど…。嫌いというほどの強い感情は持ってないし、これを作ったこと、自信を持って世に送り出したことは賞賛されていいと思う。
これは映画でもアートでも漫画でも何でもそうなんだけど、まず作ること、そして人前に出すこと。このスタートラインより前にある2つが、簡単に見えてどれだけ難しいことか。
しかも、このタイプの作品、自分や身内がたとえどれだけ気に入ってようが、どう考えても広く万人受けするものではないわけで、それでもその道を行くことを選んで、作品を作り上げて、これが私です!!って堂々と出せるっていう、そこは絶対に評価されて欲しいし、否定もしたくない。これは自分もものづくりする側っていう欲目もあるかも知れないけど。
そして、「オーシャンズ8*13の最後のカットで嗚咽を漏らしたような人間なので、女性監督、しかも俳優出身とかそれはもう頑張って欲しい…!!という気持ちも大いにあるわけですよ…。
ただなあ…それが作品そのものの評価、しかも観客目線のとなってくるとまたそれは話が別じゃんね〜ってなるわけですよ…。好きとか嫌いや合う合わないはもうどうにもなんないしね。う〜ん遺憾。一生懸命頑張りました〜や応援した〜いや次作に期待〜で評価してたら全員アカデミー賞だもんなあ。
(でも、あんまり合わなかったなーって映画が何で合わなかったのかってことについて考えるのも、結構意味がある行為だと思ってる。このエントリーもそうです。)

ただ、これ実は鑑賞後に舞台挨拶聞くまで知らなかったんですけど、これってまだ監督2作目らしいですね。もう柳英里紗映画祭が開催されてるっていうから、もう何本も撮ってるのかと思ってた。だからま〜それは方向性がニッチなの置いといても誰もが手放しで褒めるような作品ではないのも仕方ないのでは〜?とは思いました。
「次作に期待」って、つまり今作はパッとしないねって言うのと同じだからあんまりいい言葉じゃないけど、でも、意欲的野心的に敢えてこの方向性を選んだなら、貫いて今回ポカーンとしてた観客をあっと言わせてくれよな〜って。何年もの鳴かず飛ばずの苦境を気合いと根性でなにくそと乗り越えてきたその主演俳優を推してる人間は思ったりするわけです。

 

ま〜長々々と書いてきましたけど、最初の方で言ってた総括「思ってたよりひどくはなかったけど良くもなかった。でも野心的な意欲作だとは思う」って気持ちは伝わりましたかね…。難解で抽象だから好きじゃないって訳じゃないんだよ〜。ジム・ジャームッシュ「リミッツ・オブ・コントロール」とかパオロ・ソレンティーノ「グランドフィナーレ」とかヤン・シュワンクマイエル全般とかめちゃくちゃ好きだし。でも難解で抽象っぽい構造にするのも、「難解に見えるけど実は単純」「抽象的にしないと色々カドが立つ(政治批判など)」「単純に監督がブッ飛んでる」その他色んな理由があると思うんだけどこれは何でなのかな…いや別に「単にやってみたかった」でももちろんいいんだけど…まあいいやこの話キリがないわ。やめやめ。

 

ていうか、ここまで散々書いてきて今更だけど、監督も映画祭主宰もエゴサの鬼みたいな人たちなのにこれ書いて公開すんの正直めっちゃ気が重いので巻き込み事故させて欲しいんすけど、このエントリーは自分の覚え書きとしてに加えて、「Cosmic Blue」が理解できた気がしなくて好きになれなくてつらい、というメッセージを送ってきたあなたのために書きましたよ!

いいんだよすべての映画を好きにならなくても!推し監督作だろうが推し俳優が出てようが、そういうことはあります。あと今作が好きじゃなくても次作は大好きかも知れないよ。そんな絶対他人と同じ正解を探して理解しなきゃいけない好きにならなきゃいけない修行みたいな気持ちで映画館行っても楽しくないから、もっと気持ちを楽にして、映画を楽しんでくださいね。


あ!そうだ!!忘れてたこれだけ最後に書いとく。
青い血液が医療にも使われてる海洋生物ってイカじゃなくてカブトガニだよね?

*1:名古屋駅西にあるミニシアター。ここ2年ほど副支配人の坪井さんが病的に田中俊介を推している。

*2:予想の範疇なシークレットではありましたが。しかも監督本人が映画祭公式より先に上映を発表してしまいそれに主演俳優が反応し映画祭公式が慌ててフォロー情報を出すというフライング発表。

*3:出演されてる作品はいくつかタイトル見て「あ〜〜〜???」ってなったんすけど…「岐阜にイジュー!」とか…ながら見だったからなあ…

*4:あと、わずかなさぬき参戦組の舞台挨拶感想ツイート…。これも私が見かけたのはあんまりポジティブじゃないものばっかだったんだけど、後日、田中俊介映画祭でスコーレ坪井さん&田中俊介も坪井「あの時の柳さんの態度が、ま〜悪かったですね」田中「ぼくで〜ら嫌われてましたね」と話してたので実際あんまりいい状況ではなかったのかな。でもそれは引き合わせる人の紹介スキルやタイミングも大事なのでは…?

*5:舞台挨拶で田中俊介も言ってたけど、監督はじめ映画内でもSNSでも全員キャッキャしてる風に振舞ってるけど本当は全員真面目で静かで暗いタイプなんじゃないかな…という印象。

*6:名古屋今池にあるミニシアター。アートムービーやドキュメンタリー、歴史的名画リバイバルなどが得意。

*7:当たり前だけど田中俊介を見にきてるお客さんばっかなので、田中俊介が「おれにもカワイイって言って〜!」て言うようなくだりではワッと声が上がったりはするんだけど。

*8:舞台挨拶では、青い血が流れる宇宙人は岡本喜八ブルークリスマス」からではないか、とか、宇宙人たちが地球人の男の子に恋をするのはジョン・キャメロン・ミッチェルパーティで女の子に話しかけるには」の影響では?という話も出てました。

*9:ピーター・グリーナウェイの短編とか、ひたすら窓枠が映される中、窓からの転落事故データがナレーションされ続けるだけみたいな意味わからなさだけど、なんか見ちゃうんすよね。引力がおかしい。

*10:これは完全に横道に逸れる話だけど、先日公開されてた「ギルティ」が完全に観客の想像力を信頼した構造で見てて大変気持ち良かったですね!映画と観客双方の力をもってはじめて完成する映画でした。落語と講談の国の民なのでうれしくなっちゃったな。

*11:これ出典が全然思い出せなくてすいません。記憶違いの可能性もあります。

*12:言わずと知れたヴィム・ヴェンダース監督の超超名作。ラブ。胸に迫るストーリーもさることながら徹底したレイアウトと色彩設計ぜひ一度見てください。セリフがなくても画面が語りかけてくる。

*13:女も男も全員見てくれ。こんな映画が作られる時代になって本当によかった。